天災は防げない。ではどうやって大切な命を守るのか?

震災ボランティアリーダー × 震災時救急隊

鈴木:福島で長年消防士として救急隊員をなさってきた三浦さんと、東京の防災問題について議論したいと思います。三浦さんとは、小池政経塾の講義で知り合うことになりました。

三浦:4000人の参加者の中で鈴木君に会えた、あれは運命だったのかな?と今では思います。鈴木君は東大の時から震災へのボランティア団体を立ち上げて東大総長賞をもらったりしていたというのを知っていました。ただの東大生とは一線を隔す面白い人だなぁ、ぜひ話してみたいなぁと思っていたんです。

鈴木:本当ですか?嬉しいです。

我々の不安に対して、政治は何もできないのか?

鈴木:震災時、福島で救急隊員をされていた三浦さんのご経験を教えていただけますか。

三浦:僕のミッションは原発爆発直後、30km圏内に取り残された入院患者の方々を救急車に乗せて退避させることでした。爆発後、地元の双葉消防を除き、応援の消防隊、自衛隊、警察は全部撤退し、圏外で待機状態でした。そんな中の救出活動再開に志願したのです。当時、内閣府から直接、消防本部へFAXで命令が来たんです。

鈴木:命令系統を無視した形での直接指示が。

三浦:はい。未曽有の大震災に加えて原発が爆発したのだから無理もなかったのかと。もちろん、行くかどうか希望は取られましたが、僕は人のために仕事をしたくて消防に入ったので、今行かなくていつ行くんだと、二つ返事で決めました。そして、新たな爆発が起こるかもしれない。戻れないことを覚悟し、出動の朝、家族を避難させました。

鈴木:それは大変でしたね。三浦さんの本部からは第一陣の救急車だったそうですね。

三浦:そうです。誰も経験がない原子力災害に対してアクションをとるというのは難しいことだったとは思います。ですが、それにしても政府の対応は後手後手でした。放射線の安全性に対する政府見解も非常に曖昧で、有識者と政府の言うことも違う。辛かったのは、当時の内閣官房長官枝野さんの「ただちに健康に影響はありません」の繰り返し。ずっとこの繰り返しで。

鈴木:はい。

三浦我々の不安や心配に対して政治って何もできないのかと思った。こんないざという時に、本当に国民が困ったときに政治に出来ることはこんなことなのかと。そうこうしているうちに次から次に爆発が起きました。そこからですね。僕が政治に興味を持ち始めたのは。

鈴木:僕自身も政治を志すようになったきっかけは震災でした。僕はボランティアを約2年やったのですが、町が丸ごとなくなっている光景を目の当たりにしたり、ご遺体を安置する場所がないから同じ場所で寝泊まりしたりという経験をして。
以来ずっと、何かできないかという思いでボランティアをやっていました。でも、やっぱり自分たちがボランティアとしてできる事は限られているんだと実感しました。一方で政治が出来る事って本当はもっとたくさんあるはずだと思っていたんですよ。だけど、仙台にいっぱいパチンコ屋が建っていて、そこに被災者の方が、お金はあるけど仕事が無いから通っちゃうという状況がある。これは一つの例ですが、似たようなことがいっぱいある。いろんな思いがありました。もっと、違うやり方があるだろうと。そんな思いからなんとかして政治をよくしようといろんな活動をするようになった。だから、震災が無かったら今の僕もないです。

三浦:震災がきっかけで政治を志すようになったというのが、僕と鈴木君の共通点ですね。

的外れな予算で1200億が消えていく現在の震災政策

鈴木:以前お話ししたとき、三浦さんによれば今の震災対策には問題がありすぎるということでした。

三浦:はい。一つは不燃化政策です。東京の山手線外側は木造密集地域が広がっています。首都直下地震で火の手が上がるとすぐに燃え広がってしまうかもしれないので不燃化政策をやっているんです。

鈴木:建て替えに面積に応じて補助金を100万程度出します。そういう内容でしたよね?

三浦:はい。でも、その100万のために出す書類がとても多い。条件も色々ある。何十種類という書類を出さなくちゃいけないし、素人ができることじゃない。さらにもう一つの震災対策の柱である耐震化政策についても同様なんですよ。

鈴木:はい。

三浦:何より100万の補助金で、誰が何千万もかかる家の建て替えをするんですかと。お金に余裕のない方もいらっしゃるでしょう。建替える時にこの制度を使おう、となる可能性はありますけど。ですからこの政策はそもそも震災政策としては最初から失敗なんです。

鈴木:そこに年間、1200億くらいかかっているという話でした。

三浦:ところが、他の方法だと230億くらいで有効な対策もあるんです

鈴木:というと?

三浦:大震災の時の火災の約6割が電気火災、通電火災なんです。ですから、感震ブレイカーを導入して火災がそもそも起きないようにするという方法です。230億でできるはずなのに、決して有効とは言えない政策に莫大な予算をつぎ込むのは、そこに利権が絡んでいるからなのか。建て替え政策そのものはやるに越したことはないんですが・・・・

鈴木:震災対策は急務です。時間も予算も限られているし、そのなかで最大の効果を発揮できる政策をやらなきゃいけないんですよね。本当は。

三浦:現実に地震から人を守ろうという観点から政策が行われていないわけです。同じような例で言うと、津波避難タワーがあります。東京で震災が起きた場合津波被害者は1800人と見積もられています。新島では30mを超える津波が15分で到達する予想です。津波がきた時に、即座に逃げられるタワー式避難所さえあれば助かるのですが、東京都はたくさん島があるのに残り7年で9本建てる計画しかありません。島では高齢の方々も多く、本当に市民を助けるなら各島の、いろんな場所に立てなければならないのに全く足りません。

鈴木:たとえば高知では1年でたくさん建ったそうですね。

三浦:はい。確か多い年は30機近くも。東日本大震災後、建設が進んで、今は合計100機近くあると聞いています。

予定調和な姿勢だから原発事故という
「人災」が起きた

三浦:東日本大震災後に見直された地震被害想定もまだまだ甘いと思っています。例えば南海トラフの地震で東京湾に来る津波は3m以下だとか見積もられています。ところが、東日本大震災でも木更津で2m~3mくらいの津波がきたんです。3.11でさえ房総半島を回り込んできてこれなのに、東京直下で地震が起きてなんで2mの津波だという見積もりなのか。それはちょっと考えが甘すぎるんじゃないかと思わざるを得ません。

鈴木:僕も東京都の災害対策の総務部の役人さんに聞いたことがあるんですが、「専門的なことは分からないので、これは専門家が決めてこういう被害想定なんだ」という回答しか返ってきませんでした。行政がそれで責任を果たしているのかというと、そうでないと思う。僕はその姿勢で良しとしたからこそ原発の事故が起こったんじゃないかと思うんです。市民の命を守り、本当に変えようと思ったら、専門家の議論をちゃんと見て、根拠を詰めなければいけない。

三浦:津波や震度などの規模の見積もりだけでなく、震災関連死数など直接ではないけれど地震の結果、病院や、自宅で酸素投与など在宅療法をしている方々の電源が失われた場合に亡くなってしまったりという被害も想定されていない。行政側の、面倒だから、お金がかかるから見積もりを甘くしようという意図が透けて見える気がします。

鈴木:被害予想みたいなシナリオを作るために役所は専門家を呼んで審議会を開くんです。ちゃんと専門家を呼んでますよというポーズなのですがそれはそもそも非公開なんです。つまり役所は最初からストーリーを描いているんですよ。描いたストーリーに沿って専門家会議が設定されてある。何かあとで言われても「これは専門家会議の結論です」というわけです。

三浦:なんと、それはひどいですね。

鈴木:東京は特に酷い。大震災は自然災害だけど、行政が判断ミスをして備えを怠った結果人が死んだらこれは人災です。言い逃れはできない。

横断組織の必要性

三浦:東京は首都直下型地震があると言われていてそこにオリンピックを迎えなきゃいけないという状況があります。最悪オリンピック中に起こることもあり得えます。

鈴木:そんな時に問題になるのが組織だとおっしゃっていましたね。

三浦:これまで挙げた問題点の原因の一端でもあるのですが、そもそも東京都の役職だと、防災を常務とするのは、総務局の中の総合防災部という一部署でしかありません。だから権限が弱いんです。震災対策は建設局とか都市計画局とか港湾局だとか多岐にわたっているんですが、それを結局総務局の中の一部署が統率できるわけがない。

鈴木:できないですよ。局の一課長が飛び越えられるわけがないんで。

三浦:それぞれの局で、結局自分たちで震災にいいことをそれぞれ考えて、バラバラに考えて予算を作って使っているので連携がない。でも、本当は設計図、グランドデザインをもって、発災前から、そしていざとなった時、何かあったら、この局にはこれをしてもらいましょう。この道路だけは死守しましょう。東京湾北部で地震があれば東のほうはダメだから西側の道路を守りましょうとか。そういう風にシュミレーション設計図を描いて予算にも時間にも優先順位をつけて政策を実行しなければならない。全体の指揮官が必要なんです。

鈴木:都政改革本部みたいに、首都直下型地震対策本部が必要ですね。

三浦:そこには消防庁と警視庁と自衛隊も入れないといけない。大震災の時は、消防、警察、自衛隊とてんでバラバラで連携が取れなかった。この地域を救助するといっても、実は昨日自衛隊がやっていたとか・・・。

鈴木:本当ですか?信じられないですね。

三浦:一番その地区を知っているのは消防なので、消防が仕切ればいいんですが、警察は県、自衛隊は国の組織なので消防も遠慮するところがありました。
結局最後は消防が仕切ったんですがそれまでにどれだけロスがあったかという話です。そういうことも東日本で経験して、問題点を抽出できたのに、、反省から通達は出たものの、具体的アクションに乏しい。震災の時にこうしましょうっていう、組織を超えたプランがまだ十分練り直されていないんです。

システム、ソフト面に予算を

鈴木:どうやったら東京都の防災政策を変えられますか?どういう風に転換したらいいと思いますか?

三浦ハードでの対策には限界がありますよね。広範囲に渡って建て替えるだとかは現実的に不可能です。ですから、よりシステム、ソフト面にお金をかけるべきです。消防団だったり、自主防災組織だったり。消防団の人たちも高齢化が進んでいますが、若い人を入れるとなるとサラリーマンの人が多いですから、実質的な継続的な活動が難しい。
であれば、例えば消防庁のOBの方々に、防災アドバイザーとして木造密集地域などの監督区域に入っていただいて、再雇用するということはできると思います。あなたはここの命を守って、震災時はここに密着してと配置する。

鈴木:なるほど。で、日々現場を回ってもらって・・・

三浦:そうです。それに、現役時代一番長くいたような地区だととても詳しくわかっています。

鈴木:地元の人とコミュニケーションをとって、たとえば、ここは本当に燃えてしまうからなにか火事があったらすぐに逃げてくださいとか、その人にちゃんと意識を持ってもらう。顔の見える関係で、防災意識を育てていくのがすごく有効じゃないかということですね。

人事システムを変える

鈴木:「東京防災」ハンドブックというものがありましたね。

三浦:中身を見ましたがすごく良いんですよ。ただ、都内全戸に配ったとは言いますが、それで終わりというのがもったいない。さっきの感震ブレイカーにしても配るだけでなく使い方やその意義を教えないと意味がないでしょうね。

鈴木:そうなんですよね。防災ハンドブックを配って終わりじゃダメなんです。本当はあれを全員に読んでもらわなきゃダメで。読んで理解してもらって初めてその政策目標って達成されるはずなんですよね。でもそこまではいってない。これもやっぱり役所の仕組みのせいが大きいですね。結局役所の人たちはやったらそこで評価が終わりなんですが、それは役所の人事評価が悪いんです。予算を使い切ったほうが偉い。それで評価されて、出世する。だから役所ってそういう風に動くんですよね。

三浦:なるほど。

鈴木:本当に行政自体を変えようと思ったら役所の人事システムを変えないといけない
役所の人個人が悪いのではなくて、置かれている環境的にそうなってしまうというのもわかるんですよ。だって、予算を取ってくるのが偉くて、使い切るのが偉くて、仕事の評価がそれだとしたら、人間そうなりますよ。

三浦:さっきの「専門家会議」の話もそうだよね。

鈴木:そうです。でも小池さんが知事になってからそういうものは公開しようということで公開することになった。これまでのやり方は通用しなくなるんです。もっと言うと、自民党都連なんて、自分たちの議会質問を役所に書かせてましたからね。完全に出来レースですよ。そんなので役所の政策が変わるわけがないし、存在意義のない議会はいらない。今こそ変えるチャンスだと思っています。

多くの市民が批判の声を上げないと、政治は動かない

三浦:鈴木君は市民と政治をつなぐ仕事をしてきましたけれど、今、自分自身で政治家になろうと思うようになったのはなぜ?

鈴木:この2年間は市民と政治を繋げることを目標に、研究したことを政治家に提案するという仕事をしてきたんです。もっといろんな発信をしたら政治と地域が身近になるんじゃないですか?と。でも、結局受け入れてもらえなかった。「前例がない」とか言われて。それで前例がないなら自分で作ろうと思って今回自分で政治家をやろうと決意しました。人々の中で政治が身近になると、今日話した防災政策のダメなところなどを市民が知るようになりますよね。

三浦:莫大な予算をかけても穴だらけだぞって。

鈴木:そうそう。そして、それを知ることでもっと多くの市民が動くという循環ができるようになると思うんです。

三浦:変わると思いますよ。

鈴木:だから伝えることは市民と政治の距離を近づける上でとても大事なんですよ。

三浦鈴木くんは自分が政治家側の発信者になりたいんだね。

鈴木:そうです。既得権益に関することも同じで、多くの市民がそれを知ってそれに対して批判の声を上げないと動かないんですよ、政治って。やっぱり無関心が生む罪は重いです。だからその無関心を打破したい。

三浦:もっと市民が自分たちの政治について知るべきだね。

鈴木:はい。でもそれは有権者のせいではなくて、政治家がちゃんと発信できていないんです。今日の防災政策みたいな話は広めなくてはダメですよね。僕が今回三浦さんに対談をお願いしたのもこういう話を出来るだけ多くの人に知ってもらいたいって思ったからなんです。知ってもらって、備えてもらうことで一人でも多くの命が助かるかもしれない。

三浦:東京は防災・危機管理と経済活動・文化活動が両輪なんだと。世界に類のない地震大国で大きな都市がなんとかやっているのは、この両輪があるからなんだっていうのをみんなの心の中に育てられればいいですよね。それは東京の使命なんじゃないかと思うんですよ。

鈴木:僕自身が東北の現場で感じたことでも1週間もたつと忘れちゃうんです。人が忘れるのは仕方ないと思います。忘れるからこそ前に進めることもありますから。でも政治は忘れちゃいけないんです。もしもの時に何万の人々の命を背負う政策を進めることを忘れてはいけない。怠ってはいけないんです。

議会から突き上げること。それが自分の仕事

三浦:命を守る防災が経済と両輪で「これは必要なんですよ、なにがあってもやらなくちゃいけない部分なんですよ」と小池さんのように影響力のある方がはっきり打ち出せば、都民の意識もだいぶ変わると思います。

鈴木:はい。小池さんは阪神淡路大震災を経験されているし、防災に対する思いはほかの知事よりもずっと強い。もちろん、役所の政策をいきなり大転換させるのは難しい。僕の仕事は議会側からそれを突き上げていくことかなと思っています。

三浦:楽しみにしています。

三浦 将信(みうら まさのぶ)
福島の消防士。東日本大震災の発生時には、戻れない覚悟で救出活動を志願した。小池政経塾にて、鈴木邦和と出会う。

TOPに戻る

通信に失敗しました。少し時間を置いてから再度お試しください。